大判例

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京都地方裁判所 昭和52年(ワ)139号 判決

原告 山岡裕

訴訟代理人弁護士 加藤英範

同 若松芳也

被告 株式会社高島屋

代表者代表取締役 飯田慶三

代理人支配人 日下宗一郎

訴訟代理人弁護士 黒瀬正三郎

被告 竹村薬品株式会社

代表者代表取締役 竹村修一

訴訟代理人弁護士 笹川俊彦

被告 株式会社 日健フーズ

代表者代表取締役 川村和子

訴訟代理人弁護士 藤田邦彦

被告 磐石ローヤルゼリー株式会社

代表者代表取締役 森川磐石

〈ほか一名〉

被告磐石ローヤルゼリー株式会社、同株式会社磐石訴訟代理人弁護士 奥村文輔

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告株式会社高島屋、同竹村薬品株式会社、同株式会社日健フーズは、原告に対し、連帯して金二九万五〇〇〇円を支払え。

被告株式会社高島屋、同株式会社日健フーズ、同磐石ローヤルゼリー株式会社、同株式会社磐石は、原告に対し、連帯して金二九万円を支払え。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決と仮執行の宣言。

二  被告ら

主文と同旨の判決及び被告竹村薬品株式会社、同磐石ローヤルゼリー株式会社、同株式会社磐石は、仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告らの営業

被告株式会社高島屋(以下被告高島屋という)は、京都市下京区四条通河原町西入る真町五二番地の京都支店で、百貨店として食料品等の販売を、被告竹村薬品株式会社(以下被告竹村薬品という)は、医薬品、栄養食品等の製造及び販売を、被告株式会社日健フーズ(以下被告日健フーズという)は、健康を増進する食品の販売及び製造等を、被告磐石ローヤルゼリー株式会社(以下被告磐石ローヤルゼリーという)は、特殊栄養食品の加工販売を、被告株式会社磐石(以下被告磐石という)は、健康栄養食品及び健康栄養飲料の国内販売を、それぞれ業とする者である。

2  ローヤルゼリー製品の製造及び販売

(一) 被告竹村薬品は、BBローヤルゼリーキングというローヤルゼリーの加工品を製造して、被告日健フーズに納入し、被告日健フーズは、これを被告高島屋に卸し、被告高島屋は、これを原告に販売した。

(二) 被告磐石ローヤルゼリーは、ネオローヤルゼリーゴールドというローヤルゼリーの加工品(以下BBローヤルゼリーキングと合わせて、本件各製品という)を製造して、これを同被告の総発売元である被告磐石に納入し、被告磐石は、これを被告日健フーズに納入し、被告日健フーズは、これを被告高島屋に卸し、被告高島屋は、これを原告に販売した。

3  本件各製品の製造、販売及び表示方法の違法性

(一) 本件各製品の表示内容

(1) 被告竹村薬品は、BBローヤルゼリーキングの製造及び販売に際し、ローヤルゼリーにつき「みつ蜂がつくる自然の栄養源で女王蜂が生育するのに必須の食物」、「女王蜂の産卵能力、女王蜂の生命維持に自然が創り上げた総合栄養物質」、「豊富なビタミン群やアミノ酸群等が含まれる」と表示し、かつ、BBローヤルゼリーキングにつき「ローヤルゼリーを人体に応用転化し、その天然成分の酸敗を防ぐために種々工夫をこらして製品化した」もので「一粒三〇〇ミリグラム含有」と表示し、さらに、その効能として「一家の大黒柱、高壮年の方、ご婦人、成長期のお子様の栄養補給、健康維持に」と表示した。

(2) 被告磐石ローヤルゼリーは、ネオローヤルゼリーゴールドの製造及び販売に際し、ローヤルゼリーにつき「女王蜂は、働き蜂の四〇倍の長寿を保ち、毎日二〇〇〇個から三〇〇〇個、自己体重の一倍から一・五倍の産卵をする奇跡を行なう。この奇跡の秘密は、女王蜂が働き蜂とは違う常食を、食べ残す程大量に与えられるからであり、この常食がローヤルゼリーである」との趣旨、及び「豊富なビタミン群アミノ酸群その他バランスのとれた数十種の成分配合が発見され、ますます期待される驚異的物質」、「ローヤルゼリーは他の動物の寿命をも延ばすことが数々の実験によって明らかになった」と表示し、かつ、ネオローヤルゼリーゴールドにつき「自然の法則に従って流動する体細胞の活動に何らの抵抗もなく参加できる高度の栄養食品に類するもの」、「奇跡の栄養食品」、「この様な驚異的な働きは、栄養学界に革命的な意義をもたらしつつある、デラックスな総合栄養食品である」、「ローヤルゼリー原乳の保存が極めて困難であるところ(要旨)、ローヤルゼリー原乳の合理的粉末化に成功」と表示したが、その効能としては、右のとおり「高度の栄養食品」、「奇跡の栄養食品」とする他表示はなく、また、ローヤルゼリー含有量の表示がない。

(二) 本件各製品の効能等

(1) 本件各製品に含有されているとされるローヤルゼリーには、人体に対して栄養補給、健康増進等その表示された効能がない。

(2) 仮に、ローヤルゼリーに右表示された効能があるとしても、本件各製品には、ローヤルゼリーが含有されていない。

(3) 仮に、多少含有されているとしても、その含有量が極めて微量であるため、本件各製品には、右表示された効能がない。

(三) 本件各製品の販売等の違法性

(1) 現代の社会構造の下において、消費者は、利潤追求のために商品を大量生産し販売する企業に対し、全面的に従属的な地位に置かれ、商品の内容や危険性を正しく識別する能力をもち得ず、商品を選別し価格決定に参加する力を失っている。

したがって、このような地位にある消費者を保護するためにも、企業に対し、商品の表示及び広告について、真実を表示する義務を負わせなければならない。

(2) ところが、被告らは、近年消費者が公害食品や医薬品に対し不信と警戒をもつようになった心理を巧みに利用し、真実に反して、本件各製品を自然の生み出した高度の栄養食品ないしは健康食品であるとして、人体の栄養補給や健康増進等に多大の効能があるかのように表示広告をして、原告をはじめ、消費者を誤信させて、暴利をむさぼっているものである。

(3) また、BBローヤルゼリーキングの表示には、一粒三〇〇ミリグラム含有とあるから、一般の消費者は、あたかも一粒の重量六五〇ミリグラムの半分はローヤルゼリーであると錯覚する。しかし、実際には、乾燥ローヤルゼリーとしては約一〇〇ミリグラムが入っているにすぎない。

(四) 結論

したがって、被告らの本件各製品の製造及び販売は違法であり、また、その表示方法も、実際ないものをあるかのように、あるいは、実際のものより著しく優良であるかのように原告をはじめ消費者を誤認させるものであって、いずれも違法である。

4  原告が本件各製品を購入及び服用した経緯

(一) 原告は、約二〇年前から肺結核を患い、その後療養に努め、原告の妻も比較的病弱の身で、昭和五一年三月ころから、自律神経失調症または神経循環無力症になり、入院及び通院を繰り返して療養に努めていた。

(二) 原告は、昭和五一年四月、被告高島屋京都支店営業第七部部長訴外仲田隆二及び被告日健フーズ営業部長訴外西末二から、ローヤルゼリーを服用すると原告の妻の病気も直り、長生きする旨の説明を受けた。さらに、原告は、そのころ被告高島屋京都支店の店員から、本件各製品は原告とその妻の病気にてきめんに効く旨の説明を受けて、BBローヤルゼリーキング五箱(一箱八〇粒、合計四万五〇〇〇円)、ネオローヤルゼリーゴールド八箱(一箱九〇粒、合計四万円)を購入した。

(三) 原告は、同月から四か月間にわたって、妻とともに、右購入した分と知人から譲り受けたBBローヤルゼリーキング二箱、ネオローヤルゼリーゴールド一〇箱とを合わせて、一人一日約一〇錠ないし三〇錠くらいずつ服用した。しかし、本件各製品は、何ら表示された効能も示さなかった。

5  被告らの責任原因

(一) 被告高島屋の責任

(1) 債務不履行責任(第一次的請求原因)

被告高島屋は、本件各製品を販売するにあたり、原告に対し、前記4の(二)のように本件各製品には栄養補給、健康増進等の効能がある旨表示及び説明をし、原告もそれを信じて本件各製品を購入した。そこで、被告高島屋は、原告に対し、本件各製品により健康増進をもたらすべき義務を負うにいたった。しかし、本件各製品には、前記のとおりそのような効能がなかったのであるから、被告高島屋は原告に対し、売主として債務不履行責任を負う。

(2) 不法行為責任(第二次的請求原因)

被告高島屋は、本件各製品を販売するにあたり、本件各製品には右表示の効能がないことを知りながら、そのような効能がある旨原告に表示及び説明して、原告をその旨誤信させて、本件各製品を購入させた。したがって、被告高島屋は、違法な販売行為による不法行為責任を負う。

(二) その他の被告らの責任(不法行為責任)

被告竹村薬品、同日健フーズ、同磐石ローヤルゼリー、同磐石は、本件各製品には表示された効能がないことを知っていた。それにもかかわらず、被告竹村薬品、同磐石ローヤルゼリーは、その旨を表示したうえで製造及び販売してこれを流通させ、被告日健フーズ、同磐石は、販売して流通させたことにより、原告をそのような効能がある旨誤信させて、本件各製品を購入させた。したがって、右被告らは、違法な製造あるいは販売行為による不法行為責任を負う。

6  原告の損害

(一) 原告は、本件各製品の購入代金合計金八万五〇〇〇円(BBローヤルゼリーキングにつき金四万五〇〇〇円、ネオローヤルゼリーゴールドにつき金四万円)相当の損害を被った。

(二) 原告は、本件訴訟を提起、追行するために、本件各製品の分析や文献収集等を行ない、さらに、原告訴訟代理人らに、本件訴訟の提起、追行を委任し、合わせて金五〇万円の支出を余儀なくされた。

7  結論

原告は、被告高島屋に対しては、第一次的には債務不履行による、第二次的には不法行為による各損害賠償請求権に基づき、その他の被告らに対しては、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告高島屋、同竹村薬品、同日健フーズが連帯して金二九万五〇〇〇円を、被告高島屋、同日健フーズ、同磐石ローヤルゼリー、同磐石が連帯して金二九万円を支払うことを求める。

二  請求原因に対する答弁と主張

被告高島屋

(認否)

1 請求原因1の事実のうち、被告高島屋が京都支店で食料品等を販売している者であることは認める。

2 同2の事実のうち、被告日健フーズがBBローヤルゼリーキング及びネオローヤルゼリーゴールドというローヤルゼリーの加工品を被告高島屋に卸し、被告高島屋が本件各製品を原告に販売したことは認める。

3 同3(一)の事実は認める。

(二)、(三)の事実は否認し、その主張は争う。

4 同4(一)の事実は不知。

(二)の事実のうち、原告が昭和五一年四月被告高島屋からBBローヤルゼリーキング五箱、ネオローヤルゼリーゴールド八箱を購入したことは認め、その余の事実は否認する。

(三)の事実は不知。

5 同5(一)の主張は争う。

6 同6の損害額を争う。

(主張)

被告高島屋は、本件各製品の成分や効能については全く無知であり、製造業者の作成した説明書どおりの効能があるものと信じ、他に何らの表示を付加しないまま、健康食品として販売しているにすぎない。したがって、被告高島屋は、原告主張の責任を負わない。

被告竹村薬品

(認否)

1 請求原因1の事実のうち、被告竹村薬品が医薬品、栄養食品等の製造及び販売を業とする者であることは認める。

2 同2(一)の事実のうち、被告竹村薬品がBBローヤルゼリーというローヤルゼリーの加工品を製造して、被告日健フーズに納入したことは認めるが、その余の事実は不知。

3 同3(一)(1)の事実は認める。

(二)、(三)の事実は否認し、その主張は争う。

4 同4の事実は不知。

5 同5(二)の主張は争う。

6 同6の損害額を争う。

(主張)

1 ローヤルゼリーは、病後の回復、低血圧症、疲労回復等に著効があり、継続的に使用しているうちに、その効能が発揮されてくる。ローヤルゼリーは、間葉組織の活動を盛んにして全身の血液循環のアンバランスを是正し、その結果、老化度が弱まり、神経組織、ホルモン器官をはじめ内臓諸器官から筋肉、皮膚までも活力を改善する。

2 BBローヤルゼリーキングの一粒中には、粉末化されたローヤルゼリーが生ローヤルゼリーに換算して三〇〇ミリグラム以上含まれている。

被告日健フーズ

(認否)

1 請求原因1の事実のうち、被告日健フーズが健康を増進する食品の販売及び製造等を業とする者であることは認める。

2 同2の事実は認める。ただし、被告高島屋が本件各製品を原告に販売したことは不知。

3 同3(一)ないし(三)の事実は否認し、その主張は争う。

4 同4の事実は不知。

5 同5(二)の主張は争う。

6 同6の損害額を争う。

(主張)

1 本件各製品は、栄養補給を目的とする秀れた健康食品である。

2 仮に、本件各製品の製造販売に際し、原告主張のような表示がされたとしても、現代の科学では、ローヤルゼリーに少なくとも栄養食品としての効能があることは証明されており、また、表示の内容も、社会通念上許される程度のものであって、何ら虚偽の表示ではない。

3 被告日健フーズは、ローヤルゼリーについて右のような認識をもって、本件各製品を被告竹村薬品及び同磐石から仕入れ、同高島屋に納入したものである。したがって、被告日健フーズには、何らの故意、過失がない。

被告磐石ローヤルゼリー、同磐石

(認否)

1 請求原因1の事実のうち、被告磐石ローヤルゼリーが特殊栄養食品の加工販売を、被告磐石が健康栄養食品及び健康栄養飲料の国内販売を、それぞれ業とする者であることは認める。

2 同2(二)の事実のうち、被告磐石ローヤルゼリーがネオローヤルゼリーゴールドというローヤルゼリーの加工品を製造して被告磐石に納入し、被告磐石がこれを被告日健フーズに納入したことは認めるが、その余の事実は不知。

3 同2(一)(2)の事実は争う。

(二)、(三)の事実は否認し、その主張は争う。

4 同4の事実は不知。

5 同5(二)の主張は争う。

6 同6の損害額を争う。

(主張)

1 被告竹村薬品の主張1と同じ。ネオローヤルゼリーゴールド自体にも、同様の効能がある。

2 ネオローヤルゼリーゴールドは、自然栄養食品であり薬品ではないから、ローヤルゼリーの含有量を表示していない。

3 原告の主張する本件各製品の摂取量は、極めて多量であり、適切な摂取量とはいえない。

第三証拠関係《省略》

理由

一  被告らの営業

被告高島屋が、京都市下京区四条通河原町西入る真町五二番地の京都支店で、百貨店として食料品等の販売を、被告竹村薬品が、医薬品、栄養食品等の製造及び販売を、被告日健フーズが、健康を増進する食品の販売及び製造等を、被告磐石ローヤルゼリーが、特殊栄養食品の加工販売を、被告磐石が、健康栄養食品及び健康栄養飲料の国内販売を、それぞれ業とする者であることは、原告と各被告との間で争いがない。

二  本件各製品の製造及び販売

被告竹村薬品が、BBローヤルゼリーキングというローヤルゼリーの加工品を製造して、被告日健フーズに納入したことは、原告と被告竹村薬品、同日健フーズとの間では争いがなく、被告高島屋は明らかに争わないから、自白したものとみなす。被告日健フーズが、BBローヤルゼリーキングを被告高島屋に卸したことは、原告と被告高島屋、同日健フーズとの間では争いがなく、原告と被告竹村薬品との間でも、《証拠省略》によって認めることができ、この認定に反する証拠はない。

被告磐石ローヤルゼリーが、ネオローヤルゼリーゴールドというローヤルゼリーの加工品を製造して、同被告の総発売元である被告磐石に納入し、同被告がこれを被告日健フーズに納入したことは、原告と被告磐石ローヤルゼリー、同磐石、同日健フーズとの間では争いがなく、被告高島屋は明らかに争わないから、自白したものとみなす。被告日健フーズが、ネオローヤルゼリーゴールドを被告高島屋に卸したことは、原告と被告高島屋、同日健フーズとの間では争いがなく、原告と被告磐石ローヤルゼリー、同磐石との間でも、《証拠省略》によって認めることができ、この認定に反する証拠はない。

三  原告が本件各製品を購入及び服用した経緯

《証拠省略》によると、原告は、昭和二七年から肺結核を患い、その後療養に努めたが完治せず、昭和五一年四月当時月二回程通院治療を受けていた他、潜在性糖尿病でもあったこと、原告の妻は、昭和四七、八年ころから神経循環無力症を患い、その後ブロバリンの中毒症状によって昭和五一年四月当時病院に入院していたこと、原告は、そのころ、被告高島屋で買い受けた朝鮮人参の品質上の疑問について、被告高島屋の京都支店営業第七部部長訴外仲田隆二の来院を求めたので、同部長は、被告日健フーズの営業部長訴外西末二を同行して病院に出向き、原告に対し朝鮮人参の件について説明をしたこと、西末二は、そのとき、原告に対しローヤルゼリーの併用を勧めたうえ、西末二は、そのころ生ローヤルゼリー一びんを贈呈したこと、原告は、ローヤルゼリーの効能について、主治医である訴外草間泉に意見を求めたが、同医師は、栄養学に関する自己の専門的知見に基づき、ローヤルゼリーには何の意味もない、金をどぶに捨てるだけである、けれども、それで病気が悪くなるわけではないのであるから、気がすむのだったら買って飲むのもいい、そのかわりあとで愚痴をいうなという趣旨の助言をしたこと、しかし、原告は、ローヤルゼリーを試みることにし、当初貰った生ローヤルゼリーを飲用し、ついで、同年四月下旬ころから同年六月二四、五日までの間に、被告高島屋京都支店地下一階の「健康食品コーナー」で、本件各製品が薬品でないことを承知のうえで、数回にわたって、BBローヤルゼリーキング五箱、ネオローヤルゼリーゴールド八箱を購入し、そのころ右購入した分と知人から譲り受けたBBローヤルゼリーキング二箱、ネオローヤルゼリーゴールド一〇箱とを合わせて、妻とともに一人一日一〇錠ないし三〇錠くらいずつ服用したこと、ところが、原告及びその妻の病状には、格別の変化がなかったこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

四  本件各製品の表示内容及び販売方法

1  《証拠省略》によると、原告がBBローヤルゼリーキングを購入した当時、その説明書や外箱には、ローヤルゼリーに関する一般的説明(ローヤルゼリーの定義や女王蜂と働き蜂との違いをもたらす原因がローヤルゼリーであること等)のほか、ローヤルゼリーには豊富なビタミン群やアミノ酸群等が含まれている旨、右製品は、女王蜂の産卵能力、女王蜂の生命維持に自然が創り上げた総合栄養物質(ローヤルゼリー)を人体に応用転化し、その天然成分の酸敗を防ぐために種々工夫をこらして製品化したものである旨、右製品は、一家の大黒柱、高壮年の者、婦人、成長期の子供の栄養補給、健康維持に、あるいは婦人の美容に最高の自然食品としてすすめられるものである旨の、さらに一粒にローヤルゼリーが三〇〇ミリグラム含有されている旨の各記載があったこと、しかし、一日の服用量の表示がなかったこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  《証拠省略》によると、原告がネオローヤルゼリーゴールドを購入した当時、その説明書や外箱には、ローヤルゼリーに関する一般的説明のほか、ローヤルゼリーは、豊富なビタミン群やアミノ酸群、その他バランスのとれた数十種の成分を含む驚異的物質であり、奇跡の栄養食品、デラックスな総合栄養食品である旨、ローヤルゼリーはみつ蜂の女王蜂のみならず他の動物の寿命を延ばすことが数々の実験によって明らかになった旨、これは、ローヤルゼリーに含まれている天然の成分が、最も吸収されやすく、しかも理想的な形で配合されているために起こる連鎖反応による驚異的な働きであって、栄養学界に革命的意義をもたらしつつある旨、右製品は、ローヤルゼリー原乳の合理的粉末化に成功したもので、自然の法則に従って流動する体細胞の活動に何らの抵抗もなく参加できる高度の栄養食品に類するものである旨、三粒程一日一回服用すべき旨の各記載があったことが認められ、この認定に反する証拠はない。

3  原告は、昭和五一年四月、仲田隆二及び西末二から、ローヤルゼリーの服用を勧められた際、これを服用すると原告の妻の病気も直り、長生きする旨の説明を受け、さらに、同じころ被告高島屋京都支店の店員から、本件各製品は原告とその妻の病気にてきめんに効く旨の説明を受けたと主張し、《証拠省略》にはこれにそう供述部分があるが、《証拠省略》に照らして採用できないし、他に右の事実を認めることができる証拠はない。

五  本件各製品中のローヤルゼリーの有無及びローヤルゼリー含有量

1  《証拠省略》を総合すると、BBローヤルゼリーキング中には、凍結乾燥されたローヤルゼリーが含有されていること、BBローヤルゼリーキングは、錠剤であり、一錠六五〇ミリグラム中のローヤルゼリーの含有量は、生ローヤルゼリーすなわち凍結乾燥する以前の液状のローヤルゼリーに換算して約二三〇ミリグラム、凍結乾燥されたローヤルゼリーとしてはほぼその三分の一量であること、以上のことが認められ(る。)《証拠判断省略》

2  《証拠省略》によると、ネオローヤルゼリーゴールド中には、粉末化されたローヤルゼリーが含有されていること、ネオローヤルゼリーゴールドは、錠剤であり、一錠四三〇ミリグラム中のローヤルゼリーの含有量は、生ローヤルゼリー(粉末化する前のローヤルゼリー)に換算して約二六ミリグラムであること、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

六  ローヤルゼリー一般の効能

原告は、ローヤルゼリーにはもともと本件各製品に表示された効能がなかったと主張する。

《証拠省略》によると、ローヤルゼリーとは、ミツバチの働き蜂の頭部にある腺から分泌される濃い乳白色の物質であって、女王蜂の幼虫から成虫を通じての一生の餌であり、女王蜂と働き蜂の分化やその長寿及び産卵能力等に大きく寄与するものであること、ローヤルゼリー中には、多くのビタミン類が含有され、その他に、たん白質や各種アミノ酸、脂肪酸及びミネラル等が含有されていること、ローヤルゼリーの他の動物や人体に対する作用については、古くから、好結果を得たとの多くの実験報告や治験例についての多様な報告があり、社会的な関心を引いていること、我が国でも、臨床医師の治療の一方法として、あるいは民間療法として、ローヤルゼリーが用いられたことがあり、現にローヤルゼリーを主原料とし、これにビタミン類等を加えた製品が、滋養強壮等を効能とする医薬品として認可され、数種類製造販売されていること、もとより我が国にも多数多様な治験例の報告や体験談があり、熱心な信奉者も少なくないこと、以上のことが認められ、この認定の妨げになる証拠はない。

他方、《証拠省略》によると、現実のローヤルゼリー製品から摂取し得るビタミン類の量は、成人の一日の必要量と比較して極めて微量であって問題にするにあたらないこと、我が国の現在の食糧事情において、ビタミン欠乏症を起こす人はわずかであると考えられること、ローヤルゼリーに含有されるたん白質等の質や量についても、栄養学上ほとんど無意味に近いこと、そもそもミツバチに対するローヤルゼリーの効果を人間にあてはめようとすること自体を誤りとして指摘する者も多いこと、臨床医学では、プラセボ(偽薬)にも著しい効果が認められることは常識であって、人体に対する薬効の客観的な検定には、プラセボを用いた二重盲検法(投薬に際してその内容を判定者にも服用者にも知らせず、薬効評価の基準対照にプラセボを用い、薬の割りつけ、結果の評価などをすべて統計学による方法)等の科学的な方法を経る必要があること、ローヤルゼリーの有効性に関する前掲のような各種報告例は、いずれも二重盲検法による試験を経たものでないこと、ローヤルゼリーの各種効果を主張する研究者の間でも、その原因の科学的解明はまだされていないこと、以上のことが認められ、この認定の妨げになる証拠はない。

そこで、以上のような点を総合して考えると、ローヤルゼリーの人体に対する有効性に関する科学的でかつ客観的な証明は、本件証拠上ないといわざるを得ないが、他方、これが全く無益であると断言することもできず、現に、古くから多くの治験例の報告や体験談が公にされ、少なからざる信奉者を得ていることも否定し難いところである。

したがって、原告のように、ローヤルゼリーには、もともと何の効能もなかったと一概に断定してしまうことは無理である。

七  本件各製品の効能

原告は、本件各製品中のローヤルゼリーの含有量が極めて微量であるため、本件各製品には、表示された効能がなかったと主張する。

たしかに、本件各製品を服用しても、原告及びその妻の病状には、格別の変化がなかったことは、前記認定のとおりであり、また、《証拠省略》によると、ローヤルゼリー製品を施用しても、何らの効能が得られなかった事例のあることが認められないわけではない。

しかしながら、他方、BBローヤルゼリーキング一錠中には、凍結乾燥されたローヤルゼリーが生ローヤルゼリーに換算して約二三〇ミリグラム、ネオローヤルゼリーゴールド一錠中には、粉末化されたローヤルゼリーが生ローヤルゼリーに換算して約二六ミリグラムそれぞれ含有されていること、ネオローヤルゼリーゴールドの服用量は、一日一回三粒程であること、以上のことは、前記認定のとおりであり、《証拠省略》によると、ローヤルゼリーが治療効果等をもたらしたとする多くの報告例では、一日のローヤルゼリーの使用量が、おおむね数十ミリグラム程度であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうしてみると、本件各製品のローヤルゼリー含有量が少なすぎるとはいえないといわざるを得ない。

そのうえ、ローヤルゼリーの人体に対する有効性については、科学的な証明がまだなく、ローヤルゼリーの服用量と効能との間の定量的な相関関係の存在は解明されていないのであるから、効能との関係でローヤルゼリー含有量の多少を問題にする場合には、経験的な一日おおむね数十ミリグラム程度を基準にするほかはないのである。

したがって、本件各製品の含有量が少ないから効能がなかったとする原告の主張は採用できない。

八  被告らの責任の有無

1  被告高島屋の債務不履行責任について判断する。

原告が本件各製品を購入するに先立ち、被告高島屋京都支店営業部長仲田隆二や同支店の店員から、ローセルゼリーないし本件各製品は、原告及びその妻の病気にてきめんに効く旨の説明を受けたとの事実は、前記のとおり、本件証拠上認められないのである。

また、仮に被告高島屋の店員らが、ローヤルゼリーの栄養補給、健康維持、増進の効果を一般的に宣伝したとしても、その宣伝は、売買契約締結についての誘引に過ぎないものというべく、社会通念上許容されるとしなければならない。したがって、その宣伝によって、被告高島屋が原告の健康を増進するべき法的な意味での債務を負担したとまでいうことはできない筋合である。

そうすると、被告高島屋は、原告に対し、原告主張の債務を負担したことがない以上、原告は、同被告に対し、債務不履行の責任を問うことができないことは、いうまでもない。

2  被告らの本件各製品の製造及び販売行為が不法行為を構成するかどうかについて判断する。

(一)  原告は、被告ら企業には、消費者を保護するため商品の広告、表示について真実を表示する義務があると強調する。

たしかに、現代の経済社会の発展に応じ、消費者の利益の擁護の必要性が増大していることは顕著な事実であって、このために、消費者保護基本法の制定をはじめ、各種の施策が拡充強化されてきている。なかでも、消費者自身に正しい商品選択の機会を確保するために、広告、表示の適正化をはかることは、目下の重要な課題であり、この点でも不当景品類及び不当表示防止法等多種にわたる立法や施策が行なわれている。

しかし、本件で問題になるのは、消費者保護のための右のような積極的な施策との関係での一般的な適法性の問題ではなく、原告に対する関係での不法行為法上の損害賠償責任の有無である。したがって、ここでは、まず、原告に対する関係での故意、過失による違法な権利ないし利益の侵害の有無が問われることになる。そして、違法性は、侵害行為の不法性と被侵害利益の重大性との相関関係において判断されるべきものであり、また、侵害行為の不法性の判断については、消費者保護の理念と共に、一般的な経済活動の自由の尊重や、民主主義社会での多様な価値観の存在の許容性等の点も、あわせて考慮されなければならない。そして、なによりも、右の違法性の判断は、原告との関係で、前記認定の具体的な事情に基づいてされなければならない。

(二)  以上の視点に立って本件を考察する。

(1) ローヤルゼリーの人体に対する有効性については、科学的な証明がまだないとはいえ、ローヤルゼリーが女王蜂の分化等に及ぼす驚異的な作用によって古くから世人の関心を引き、その人体への応用について様々な治験例の報告や体験談が公にされ、一部の信奉者の支持を受けてきているのであるから、これを健康食品という商品として社会に供給すること自体が国法秩序に違反する違法行為であるとすることはできない。

(2) もっとも、その効能については、社会的な承認が常に得られているとまではいえないのであるから、これについて、薬理作用の判明した医薬品等との混同を生ずるような広告、表示を行なうことは、社会的に許容されないというべきである(この点は、薬事法の規定をまつまでもない)。

ところで、本件各製品は、前記認定のとおり錠剤の形をとっており、一般の消費者は、これを食品というよりは高価な医薬品として買い受けて服用することもあり得ようが、本件各製品の説明書や外箱には、食品である旨が明示されており、また、その表示中効能としてうたったところは、前記のとおり、栄養補給及び健康維持(増進ではない)の効能に止まる。そのうえ、栄養補給及び健康維持の意義自体が極めて抽象的かつ多義的で、しかも主観的な要素を多分に含むものであるから、広告、表示が、健康維持の強調に止まるかぎりは、これを直ちに違法であるとすることはできない。

また、消費者一般の文化水準や医療の普及等の現状を考えあわせると、右のような表示は、消費者に対し医薬品と誤認、混同させるおそれが大きいともいえない。とりわけ、原告は、被告高島屋地下一階の「健康食品コーナー」で本件各製品を数回にわたって食品として購入したのである(もっとも、ネオローヤルゼリーゴールドに関しては、《証拠省略》によると、ネオローヤルゼリーゴールドの説明書はともかくとして、口頭では、同代表者森川磐石自身が、同製品の癌等多様な疾病に対する有効性を強調し、また、これの信奉者らも、そのことを宣伝し強調していることが認められるので、問題がないわけではない。しかし、原告に対する関係で、そのことが表示されたとする証拠は無いのであるから、この点は、本件では問題にならない)。

(3) 仮に当該消費者に対しローヤルゼリー製品が何らの効能もなかったとしても、消費者の被る一般的不利益(損害ではない)は、商品の購入代金だけとみるべきである。本件では、たかだか合計八万五〇〇〇円にすぎない。

他方、本件各製品の製造、販売業者である被告らは、何の効能がないことを知りながら、あえて本件各製品を製造販売し、あるいは、これによって不当に高額な暴利をむさぼった事実を認めることができる証拠は、どこにもない。

そうすると、本件各製品の製造販売や表示が、社会通念上、その許容性の範囲を超えたと断定することはできない。

(4) そのような表示や販売であっても、その表示や販売の相手方となった者の判断能力や販売場所や機会との関係で、あるいは、それが結果としてもたらした損害の重大性とこれに対する販売者らの予見可能性との関係で、具体的かつ個別的な事情の下では、その表示や販売行為自体には、社会的許容性の範囲を逸脱した違法があるとされる場合があることは否定できない。

しかし、前記認定の事実によると、原告は、二か月足らずで本件各製品の服用を中止し、転じて被告高島屋等の責任を厳しく追求する等、社会的な判断能力を十分備えた者であり、そのうえ、原告は、本件各製品の服用にあたって、主治医からあらかじめ適切な忠告を得ていながら、あえて、自ら積極的にこれを買い求めて服用したものである。他方、原告の受けた不利益は、本件各製品の購入代金である金八万五〇〇〇円であることを考えあわせると、原告の本件各製品の服用が誤ったものであったとしても、それは、原告自らの判断の誤りに帰すべきであって、被告らの表示や販売にその責任を転嫁することはできない。したがって、本件各製品の表示や販売が具体的な事情の下で、原告に対する関係で違法性があるとすることは、無理である。

(5) なお、BBローヤルゼリーキング一錠六五〇ミリグラムに含有されるローヤルゼリーの量は、前記認定のとおり生ローヤルゼリーに換算しても約二三〇ミリグラムであって、その説明書の「一粒三〇〇ミリグラム含有」との記載に反しているが、この点が不当景品類及び不当表示防止法四条一号に違反するかどうかはともかくとして、この点だけから、BBローヤルゼリーキングの製造及び販売行為が直ちに不法行為を構成することにはならない。

(三)  以上の次第で、被告らは、本件各製品の製造、表示及び販売行為により原告に対して不法行為責任を負うものではない。

九  むすび

原告の被告らに対する本件請求は、その余の判断をするまでもなく失当であるから棄却し、民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 小田耕治 西田眞基)

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